最近、債券ETFを中心に米国株ブログの記事を読んでいて思ったのです。かの「可変レバレッジド・ポートフォリオ」って米国市場総合債券ETFであるところのBNDの代わりに別のETF使った方が良さそうじゃない?と
可変レバレッジド・ポートフォリオの「真水」部分
- 異なる値動きをする(=相関係数が低い)資産クラスを組み合わせることで、個々の資産クラスよりもリスク・リターン比を改善することができる
- 適当な資産構成割合(ポートフォリオ)を決めたら、後はリスク資産と非リスク資産の比率を変えたり、レバレッジをかけたりして、資産全体のリスクを自分の求める値に調整すればよい
というのが現代ポートフォリオ理論の根幹であります。ここで可変レバレッジド・ポートフォリオは、資産のリスクを負う部分についてレバレッジをかけたETFを用いることで、リスクを避ける「真水」部分の量を増やし、「真水」部分も含めたリバランスによる適度な利確や押し目買いの効能を高めている、のだと思います。多分
(可変レバレッジド・ポートフォリオについて詳しくは本家本元と言っても過言ではない↓のブログをご参照くださいな)
さて、先ほど述べた「真水」部分ですが、レバレッジETFの部分を薄めてリスクの大きさを調整する役割を持ち*1、真っ当な投資家なら必ず行っている資金管理、ポジションサイジングの機能を提供しているわけです。ところで、上で述べた現代ポートフォリオ理論の説明にもある通り、ポジションを持たない部分は通常元本の保証された非リスク資産として保有するものでしょう
しかし、可変レバレッジド・ポートフォリオにおいてはリスク・ポジションにあたらない「真水」部分は債券ETFであるBNDとして保有されます。BNDはここ10年でボラティリティが3%程度、シャープレシオが1.0超と、値動きが少なくその割にリターンの大きい安定した銘柄ですが、ETFですので当然日々の値動きがあり、元本が保証されているわけではない。非リスク資産ではないわけです
(↓モーニングスターよりBNDのデータ)
さらに、そのBNDの値動きについても中身を考えてみると、更なる「ひっかかり」が出てきます。BNDは米国市場の投資適格債全体に投資するものであり、その中には当然社債や超長期債を含みます。ここで可変レバレッジド・ポートフォリオの「原液」であるレバレッジETFはSPXLとTMFであり、前者は株式市場の3倍の値動き、後者は20年超の超長期債の3倍の値動きをするわけですが、社債は株式指数との相関係数(市場感応度β)がプラスですので、つまりBNDには2種類の「原液」部分と同方向の値動きをするものがある程度含まれているわけです
以上の「ひっかかり」を元に問いを立てるならこうなります。「可変レバレッジド・ポートフォリオで『原液』部分をヘッジする『真水』部分として、BNDよりも適切な手段があるのではないか?」
代替案1:現金
非リスク資産とくればまずは現金ですよね。あ、為替の話も入ってくるとややこしいので、今回は米ドルで考えることとします。ETFの価格が現金(法定通貨)を単位にしている以上、ドル建て現金は「原液」部分と真逆の動きをすると言えなくもないわけです
しかし実用的に考えると証券会社の預かり金として置いておくことになるので、いくら非リスク資産とはいえ金利がつかないのはアレ。外貨MMFで保有する想定でいきますか。ほとんど元本割れの危険はなく*2、1.2%ぐらいの利率になります
代替案2:短期国債ETF
そもそも可変レバレッジド・ポートフォリオで超長期債のブルETFであるTMFが採用されているのは、平均残存期間が長いことで金利感応度(デュレーション)が高く、値動きが大きくなることで市場感応度のマイナスがより大きくなる故にSPXLに対するヘッジがより効くようになることと、金利リスクの高さによりリターンが高くなるからであります
逆に考えれば、そういうTMFを含む「原液」部分をヘッジするためには、金利感応度の低い短期債を選ぶというのは理にかなった考え方でしょう。加えて社債は市場感応度がプラスでSPXLと同じ方向に動くと考えれば、短期国債のETF(例えばVGSH)が「原液」の両成分をヘッジする「真水」として上手く機能するのではないでしょうか*3
(債券ETFの種類による金利感応度と活用法の違いについては↓のサイトが参考になるでしょう)
(というかこのブログを読んだ結果、この記事の発想に至ったわけですが)
代替案3:金(ゴールド)
金(かね、マネー)ではなく金(きん、ゴールド)。株も駄目、債券も駄目、となった時の資金の逃避(ヘッジ)先といえばゴールドですね。今年たびたび見られた現象です。まあリーマンショックの一番ヤバい時には金からすら資金が引き上げられたとも言いますが。ともあれ株や債券と異なる値動きをし、インフレに強い金によるヘッジは「真水」部分にふさわしい働きをしてくれることでしょう
具体的にはIAUやGLDのような金ETFを「真水」とすることになります。ただし、金というのは困ったことに利回りゼロなのです。それを考えると非リスク資産で運用した方が良い結果を生むかもしれません
検証結果は如何に
米国株クラスタ御用達のPortfolio Visualizerで早速検証
なのだが、銘柄指定してのポートフォリオに現金+金利は無理だよなぁ。というわけで、BND vs VGSH vs GLDで「真水」部分ガチンコ勝負となりました。その結果がこちら*4
ポートフォリオ1~3の順に「真水」がBND, VGSH, GLDです。BNDとGLDはいい勝負してますね。一方、VGSHはどうにもそれらに劣る雰囲気。まあ、BNDからリスクを下げた分リターンが下がるのも当然なわけで、そこは「原液」の割合で調整すればいい話。問題はリスクをより減らせるかどうかですよ。というわけで、シャープレシオとソルティノレシオ*5を比較するとお次の通り(シャープレシオ・ソルティノレシオ←「真水」という表記)
1.44・2.69←BND
1.43・2.67←VGSH
1.33・2.55←GLD
うーん。若干ですがVGSHが負けてますねぇ。てかGLDだとはっきりBNDに差をつけられている。リターンだとBNDとGLDのどちらが有利かは時期によって変わり、最終的にはどちらでも同じようなものという空気を醸し出していましたが、債券(総合)より金の方がボラティリティ激しいよね というよくよく考えればそうだよなぁという結果に
まとめ
可変レバレッジド・ポートフォリオの「真水」部分の座を争う戦いは、元祖「真水」のBNDに軍配が上がりました。流石に元々の可変レバレッジド・ポートフォリオがよく考えられてるなぁ。まあ、今回の検証は非常に適当なものなので、頑張って検証期間を広げてみれば違った結論になるのかもしれません。が、自分は現在米国株やってないので、これ以上は気にならないです