インフレが落ち着いて金利が下がれば国債が高騰!という投資家の期待を数ヶ月にわたって裏切り続けている米国債ですが、そもそも米国債の発行が多すぎるという問題があります。発端はそろそろみんな忘れてそうなアメリカの債務上限問題。このテーマに関して今までブログやSNSに書いてきた内容を、相変わらず米国債が軟調だと思ったのでまとめてみました
- まとめ
- [6/2]米政府債務問題の解決が更なる問題を招く
- [6/16]米国債増発の株価への影響を定量的に考察
- [6/18]米国債大量発行というピンチに救世主現る
- [6/21]MMFの資金が無事国債の消化に向かっている模様
- [6/21]1兆ドルの米国債が無事消化される方法
- [6/28]量的引締めで短期国債の買い手が民間へ
- [6/28]1兆ドルの短期国債を消化しても1兆ドルの長期国債が待っている
- [8/10]米国債の供給増による市場への影響がハッキリと
- [8/22]量的引締め終了のデッドライン
まとめ
- 米国債が大量に発行されている
- 市場の資金が新規発行される米国債に流れ込むと、3ヶ月分の短期国債だけでS&P500を20%押し下げるインパクトがある
- MMFがリバースレポから資金を移すことで、市場の資金を奪うことなく無事に国債が消化されている
- リバースレポが底を尽くまでにFRBがQTを停止するかが今後焦点になる
- それはそれとして中長期国債がだぶつきがちなのが価格に影響出てる
以下これまでに書いたり書かなかったりした内容
[6/2]米政府債務問題の解決が更なる問題を招く
債務上限が停止されて無事国債の追加発行が可能になったアメリカ政府ですが、おかげで減った現金を補充するため、3ヶ月で1兆ドルもの短期国債が発行されるようです
つまり、民間の資金が国債を購入することで、1兆ドルもの資金が市場から政府に吸い上げられることになります。ちなみに最近の金融引締めによりアメリカのマネーサプライ (M2) がここ1年で減少した額がおよそ1兆ドル。それがたったの3ヶ月で市場から消えるって…
[6/16]米国債増発の株価への影響を定量的に考察
アメリカ政府の債務上限問題が落着した結果、向こう3ヶ月で1兆ドル(!)もの短期国債が発行されると予想され、市場から資金が吸い上げられる~と不安視されていますね
最近の引締めでマネーサプライ (M2) が1年かけて減少したのと同規模の額を3ヶ月で!?ということでどう考えてもヤバいんですが、実際どれくらい影響あるんでしょ?
そこで参考になるのが量的引締めが株価にどれくらい影響したのかを論じるこちらの記事
連邦準備制度理事会 (FRB) の資産が10億ドル減るごとにS&P500が0.86減る計算になるそうで。ここで重要なのはFRBのバランスシートそのままではなく、そこから政府預金口座とリバースレポ*1の額を差し引くとかなり正確にS&P500の値動きを説明できること
政府預金口座もリバースレポも、FRBの資産に影響を与えること無く世の中のドルを吸い上げるわけで。今回国債を大量発行すると当然政府預金口座の残高が増えるので、FRBがバランスシートを圧縮したのと同様の影響が及ぶと思われます。ということで1兆ドルの流動性が市場から回収されると、予想されるS&P500の値下がり幅は860。…20%近く下落する計算になりますね
ちなみにこの連動チャートはFREDで見れるよ! やったね!!
…あー、一時期の銀行支援でFRD資産がリバウンドしたのが戻っても株価は上振れしたままだし*2、しかも一旦戻ったと思った市場に流してる流動性が5月からはむしろ増えてきてるので、そりゃプチバブルみたいになるわ
[6/18]米国債大量発行というピンチに救世主現る
先日も書いた 米国債大量発行により市場から資金が吸い上げられて相場が強烈に下押しされる問題、なんとかしてくれそうな救世主が現れました!
ちょっと前から、銀行に比べて利回りが良いので人気が拡大しているMMFが短期国債を買い漁ってるという話がありました
ここで重要なのが、債務上限問題で国債の発行が滞ってる間、MMFは国債が買えなくて余ってる資金をリバースレポ(債券を担保とした貸付)で連邦準備制度理事会 (FRB) に貸し出して運用してたんですね
そして国債が潤沢に供給されるようになった今、MMFはそっちに資金を向かわせたのでリバースレポは減ってることが明らかになりました
国債発行による政府預金口座の残高増大もFRBに対するリバースレポも、同様に政府&中央銀行が市場から資金を吸い上げる効果があるので、一方が増える代わりにもう一方が減るのであれば市場への影響は避けられると思われます
[6/21]MMFの資金が無事国債の消化に向かっている模様
債務上限の問題を終えて大量発行される米国債が市場を押し下げる懸念がありましたが、MMFにとっては恵みの雨のようです。今後の金融政策の見通しが良くなった結果、MMFは安心して翌日物より利回りの良い短期国債に資金を向かわせています
最近は株価も好調なため、顧客資金が株式に逃げないようMMFが積極的にリターンを追求しているのも国債への意欲を高めているんだとか。ともあれ、無事に国債が消化されれば相場が下押しされることも無さそうで安心ですね
[6/21]1兆ドルの米国債が無事消化される方法
このブログでもちまちま書いてた米国債大量発行問題ですが、これについてガッツリ論じている記事↓が本当に参考になります
曰く、量的緩和で運用難となったMMFを救済するために拡大してきたリバースレポ (RRP) ですが、量的引き締めが始まっても縮小しませんでした。だって利上げのスピードや最終的な金利の到達点が不透明なんだもん。翌日物のリバースレポから数ヶ月の短期国債に乗換えるなんて金利が不安定でやりたくないよね
そこでこの前触れた、FRBの資産額からリバースレポと政府預金口座の残高を差し引いた額が株価と連動しているという話が重要になってきます。この差っ引いた数字というのは(FRBのバランスシートを考えれば当然ですが)銀行が中央銀行に預けてる準備預金がその多くを占めるので、銀行が資金を引き出すと減ります。つまり、大量発行された国債を銀行が引き受けるために準備預金に預けてた資金を使うと減ります。なのでやっぱりMMFが国債を買わなかったので銀行が買いましたとなると株価が下がる!
「別に市中に出回らず銀行がFRBに預けてた資金が減っても影響無くね?」と思うのですが、上記記事によると株式市場はFRBのバランスシートに脊髄反射してるだけなので…との説明。確かに「預金引き出し対策で銀行に資金注入した結果引き締めが緩和に転じてバブルになるって? その資金は(取付け騒ぎが頻発でもしないと)市中に出回らず銀行に留まるから影響無くね?」と3月頃に思っていたのですが、この予想は半分当たって半分外れました。インフレ率低下は続いた一方で株価は上昇したのです!
というわけで国債の購入に準備預金ではなくリバースレポが使われれば株価に影響が及ばなくて済むという話。そのための条件として上記記事では金利のボラティリティが下がること、そのために政策金利の不確実性が抑えられる、具体的には利上げを停止し利下げも遠いと予想されること、そしてリバースレポの金利を抑えて準備預金との金利差を拡大し、MMFの国債購入を促すことが挙げられています
先日紹介したように、実際にリバースレポから国債にMMFの資金が向かっているようなので、今のところは安心だと思われます
[6/28]量的引締めで短期国債の買い手が民間へ
最近アメリカの量的引締めの影響とか全然話題を見ないなぁと思ったら、短期国債が満期になってもFRBが次の短期国債を買わないので保有量が減っているとの話
そしてFRBが買わない分の短期国債をMMFが買ってるので、市場には量的引き締めの影響が現れてないようです
[6/28]1兆ドルの短期国債を消化しても1兆ドルの長期国債が待っている
アメリカ政府の債務上限が延期された結果、それまで発行出来なかった米国債が一気に発行されるわけで。短期国債についてはMMFが旺盛に購入し、市場への影響は避けられそうだと分かってきました。ところが米国債は勿論短期国債だけではありません
今年の中期と長期の国債発行額は1兆ドルを超え、来年は更に倍になると見込まれています。債券がだぶついて価格が下落し、市場から資金を吸い上げることで株価も下落するかもしれません。個人投資家に取っては債券、株式ともに下値を拾うチャンスになるかも
[8/10]米国債の供給増による市場への影響がハッキリと
米国債が大量に発行されるタイミングとフィッチの米国債格下げ、日銀の長短金利操作 (YCC) 柔軟化がほんの数日に集中したため、債券市場はてんやわんやとなりました
その後も過去最大額の国債入札が続き、債券市場は落ち着けない状況が続くようです
[8/22]量的引締め終了のデッドライン
上で書いたようなFRBのバランスシートに足し引きする話を今更書いてる記事があると思ったら
リバースレポが減ることで表面的に量的引締め (QT) が続けられてるわけだから、リバースレポの残高が無くなるまでにQTを止める話が出てくるかどうかが勝負の分かれ目よという話だった